更科蕎麦はなぜ真っ白? 温故知新のおつゆと伝統の更科蕎麦で守り抜くプライドの味

麻布・赤坂・六本木蕎麦

寛政元年に殿様のスポンサーで開業したという蕎麦屋の総本家 更科堀井。老舗としてのこだわりを携えつつ、意欲的に海外出店も果たしています。赤ワインの温度で楽しむべしという自慢のおつゆと、殿様に献上するために真っ白になったという更科蕎麦の秘密を、九代目堀井良教さんにうかがいました。

林:まずは自己紹介とお店の紹介をお願いできますか?

堀井さん:ご紹介いただきました更科堀井の堀井でございます。麻布十番と日本橋高島屋の新館6階で店をやっております。

創業が1789年、寛政元年で、私で九代目です。江戸のお蕎麦といいますと三つの暖簾がございまして、一つが砂場さん、ご本家が室町です。それから藪蕎麦さん、ご本家が神田になります。ちょっと離れて麻布で更科の暖簾を渡しておりまして、私どもは総本家ということになっております。元々私の祖先が布の行商人でございまして、信州と江戸を行ったり来たりする仕事をしておりました。そんな中、信州のお殿様の下屋敷に泊めていただいた折に『お前、蕎麦打ちが上手いから、江戸に出てきて蕎麦屋やらないか?』と言われたそうです。それで本当にお店を出したのが寛政元年でございます。

林:お殿様がスポンサーってすごいですよね。

堀井さん:そうですよね。当時はお殿様のネットワークも活用していたようです。将軍家なんかにも献上していたらしくて。でも、黒い蕎麦はたんぱく質が多くて、すぐにくっついてしまうんです。だから自然と白い蕎麦へと移行していったわけです。そして六代目、私の曾祖母にあたる人が石森製粉と組んで商品開発をした結果、それが飛ぶように売れて名物になりました。当時、盛り蕎麦が15銭だったのに対して、更科蕎麦は1円で売っていたので、相当高級だったようです。

林:(実を)磨いて磨いて磨いて、ということですよね。

そうですね、大吟醸のようなお蕎麦です。水が切れてもサラサラっとほぐれるということで、台湾まで持って行ったというような記録も残っています。おそらく100人前など、相当な単位で持って行ったと思うんです。その頃はすごくうちも繁盛していたと、曾祖母は言っていました。

林:献上蕎麦からスタートして、お土産として海外に持って行かれるまで広がったんですね。

堀井さん:托鉢のお坊さんが『あそこの蕎麦は旨い』って言ってくれましてね。曾祖母はそういうのが上手くて、托鉢のお坊さんにどんどん渡しちゃうわけです。すると勝手に評判が広がっていく。曾祖母なりの宣伝戦略、広告戦略みたいなものでしょうか。

林:托鉢のお坊さんは各地を移動しますから、いまでいうインフルエンサーのような役割ですね。

堀井さん:そうなんです。全国各地で『あそこの蕎麦は旨いよ』って言ってくれるので、それがまた広告になった。

殻や糠を取り除くことで、真っ白な蕎麦が生まれた

堀井さん:更科蕎麦は真っ白なお蕎麦です。どのように作るのかというと、蕎麦の実の殻や糠の部分をすべて排除して、真っ白い部分だけを使用しているんです。白い蕎麦はうどん粉が多いのではないかと言われますが、そうではありません。蕎麦粉の割合が高くても、殻や糠を取り除けば白い蕎麦が作れるんです。ただし、たんぱく質がないからうまくまとまりません。うどんなんかもグルテンというたんぱく質を含むから、麺としてまとまるんです。

林:グルテンの効用でつながっている、と。

堀井さん:そうです。なので更科蕎麦を打つには、特殊な技術が求められます。更科粉を90℃以上の熱湯で捏ねるんです。そうしなければ粘りが出ないので。粘りを出すために『やかんを粉のなかにぶち込め』って言われるぐらい、熱湯が大事なんです。そうして捏ねたものを「蕎麦掻き」と言いまして、これがノリのような効果を発揮します。ふつうの蕎麦は水を少しずつ混ぜながら捏ねていきますが、更科蕎麦はこの蕎麦掻きを利用して全体をまとめていくんです。

林:熟練の技ですね。

堀井さん:また、さまざまなアレンジも可能です。例えば柚子の皮を入れると柚子切になりますし、ヨモギの葉っぱを入れればヨモギ切になりますし、蕎麦掻きをトマトジュースで作るとトマトつなぎという真っ赤なお蕎麦ができるわけですね。

 

林:しかもトマトは旨味もありますもんね。

堀井さん:そうですね。バジルソースなんかで召し上がっていただくと非常に面白いと思います。更科蕎麦は真っ白なお蕎麦なので香りにクセもないですし、真っ白なキャンパスですから、いろいろな食材を混ぜることで鮮やかな色合いのお蕎麦も作れます。

林:混ぜ込んだ食材の香りも色も楽しめるんですね。

現在は22種類の蕎麦を提供! ニューヨーカーにも愛される

堀井さん:ニューヨークにもお店があるんですけど、ニューヨーカーたちは9割が更科蕎麦を食べてくださっています。六代目が開発したお蕎麦をニューヨーカーがすすっていると想像すると、なかなか愉快な気持ちになりますね。

林:素晴らしいですね。実際私ももう何回も更科堀井さんで食事させていただいておりまして、本当にいろんな種類がありますよね。

堀井さん:いまは22種類ありますね。

林:22種類も! 楽しいですね~。お蕎麦の可能性というか、そういったものを感じます。それ以外にも、最近では通販なども含めていろいろな工夫をされているんですよね。

堀井さん:こんな時代ですからね。なるべくお店のものをご家庭でも召し上がっていただけるようにと、半生蕎麦を作ったりしています。通常とは別のラインでおつゆを取って凍らせて、冷凍の鴨せいろなどもやらせていただいています。

更科蕎麦がどうして真っ白になったのか。その背景に迫りました。続く後編では、お蕎麦の美味しい茹で方や食べ方を九代目に教えてもらいます。

後編へ続く

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