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獺祭(旧旭酒造)|山口の酒蔵が社員で醸す純米大吟醸を四代目が語る【動画】

「獺祭(だっさい)」は、山口県岩国市の山あいにある酒蔵が醸す純米大吟醸です。いまでは世界各国に届く銘柄になりましたが、その蔵は昭和の終わりごろ、地元で「負け組」と呼ばれる小さな蔵でした。

2025年10月11日、「老舗フェスティバル2025 by agataJapan」の老舗・ご当地セミナーで、四代目蔵元の桜井一宏氏が「獺祭の進化〜日本で一番失敗している酒蔵の挑戦」と題して語りました。その全編(1時間13分)を、agataJapanのYouTubeチャンネル「日本の老舗」で公開しています。

この記事では、講演を手がかりに、蔵の歩み、杜氏(とうじ)制度を手放して社員で酒を造るという選択、山田錦と純米大吟醸だけに絞った理由、そしてニューヨークから月面にまで伸びる挑戦を整理しました。事実は公式サイト・国税庁の基準・報道などで裏を取り、確認日を添えています(本記事の事実確認はいずれも2026年10月20日)。

四代目蔵元・桜井一宏氏の講演(動画)

  • 動画タイトル:「獺祭の進化〜日本で一番失敗している酒蔵の挑戦/老舗・ご当地セミナー/老舗フェスティバル 2025 by agataJapan」
  • 長さ 1時間13分7秒 / 2025年12月8日公開(チャンネル「日本の老舗」)
  • 登壇:桜井一宏 氏(株式会社 獺祭 代表取締役社長/四代目蔵元)
  • 収録:2025年10月11日(土)老舗フェスティバル2025 by agataJapan「老舗・ご当地セミナー」/野村コンファレンスプラザ日本橋 6F 大ホール

動画の見どころはどこか

以下の時間は、動画の概要欄に記載された章立てです。

  • 01:24 日本で一番失敗の多い酒蔵? 獺祭が辿った成長曲線
  • 03:50 日本酒業界全体が下がる中、獺祭だけが伸びた背景
  • 06:50 純米大吟醸・山田錦のみを貫くこだわりと四つの特徴
  • 08:35 コンサルタントに頼らず「変革」を進めた理由
  • 14:40 杜氏制度を廃止し、社員による酒造りへ移行した転機
  • 20:20 酒造りにおけるデータ化・見える化への取り組み
  • 26:20 なぜ獺祭は「小仕込み」を続けるのか
  • 32:08 酒造りにおける「アジャイル開発(PDCA)」の重要性
  • 34:35 獺祭 BLUE:ニューヨークに酒蔵を作った理由と挑戦
  • 49:30 国際宇宙ステーション(ISS)での酒造りプロジェクト
  • 52:20 山田錦コンテスト:農家とともに最高の米を目指す挑戦

獺祭を醸す蔵は、いつからあるのか

公式サイトの会社概要は、商号を株式会社 獺祭、創業を1948年1月23日、代表者を代表取締役 桜井一宏、資本金を1000万円、事業内容を「獺祭の製造および販売」、所在地を山口県岩国市周東町獺越2167-4と記載しています(公式サイト・2026年10月20日確認)。

一方、企業紹介媒体のなかには、桜井家の酒造りの始まりを1770年(明和7年)とし、1948年を「会社設立」として書き分けているものがあります。蔵が長くつくってきた普通酒「旭富士」についても「200年以上の伝統を持つ」と紹介された記事があります。この記事では公式サイトの記載(創業1948年)を採りますが、江戸期からの酒造りを創業とする記述もあるため、両方を示しておきます。一次資料で確認できた年だけを断定し、確認できない年は書かないという方針です。

社名は、2025年6月1日に「旭酒造株式会社」から「株式会社 獺祭」へ変わりました。公式のお知らせは、獺祭という名前が「単なるお酒の名前というより、美味しいお酒を求めてただひたすらにもがき、挑んできた道のり」を表すものだとし、「世界のDASSAI」を目指すと述べています。

「獺祭」という名はどこから来たのか

公式サイトによれば、蔵のある「獺越(おそごえ)」という地名は、「川上村に古い獺がいて、子供を化かして当村まで追越してきた」ことに由来すると伝えられ(出典は江戸期の地誌『地下上申』)、ここから一字をとって銘柄名としました。

「獺祭」という言葉そのものは、獺が捕らえた魚を岸に並べて祭りをするように見えるところから、詩や文をつくるときに多くの参考資料を広げ散らすことを指します。明治の文学に革命を起こしたといわれる正岡子規が自らを「獺祭書屋主人」と号したことも、この名に重ねられています。蔵のキャッチフレーズは「酒造りは夢創り、拓こう日本酒新時代」です。

四代目蔵元・桜井一宏氏はどんな人か

動画の概要欄に掲げられた登壇者プロフィールによれば、桜井一宏氏は1976年生まれ、山口県周東町(現・岩国市)出身。早稲田大学を卒業後、酒造とは関係のない東京のメーカーに就職しました。東京の居酒屋で「獺祭」のおいしさに気づき、2006年に実家に戻る形で入社して常務取締役に。2013年から取締役副社長として海外マーケティングを担当し、主にニューヨークで海外進出の礎を築きます。2016年9月に代表取締役社長に就任し、四代目蔵元となりました。

※副社長就任の年は、概要欄のプロフィールが2013年、企業紹介媒体が2010年としており、記載が分かれます。本記事は登壇者本人のプロフィールとして掲げられた概要欄の年を採りました。

三代目は桜井博志氏(現・会長)です。1984年、34歳のときに父の逝去を受けて蔵に戻りました。当時の年間生産量は126キロリットルで、「事実上の倒産状態。廃業寸前だった」と振り返っています。純米大吟醸「獺祭」の開発を軸に経営を建て直し、それまでの主力銘柄「旭富士」の普通酒づくりをやめました。

なぜ杜氏を置かず、社員で酒を造るのか

そもそも杜氏とは何をする人か

杜氏は、蔵元から信任を受けて蔵人の集団を組織・統率し、酒造りを総括する最高責任者です。伝統的には蔵元から一年の酒造りを請け負う請負業で、配下に頭(かしら)・麹屋・酛屋の三役などを置きました。もとは夏に農業を営む人々が、農閑期の冬に酒どころへ集団で出稼ぎに行ったことから生まれた季節労働の仕組みで、南部杜氏・山内杜氏・会津杜氏・丹波杜氏といった流派があります。

1980年代ごろから杜氏の数は減り、後継者不足が深刻になりました。農業や漁業だけで暮らせるようになり出稼ぎの必要が薄れたことが背景の一つとされ、蔵元が自ら杜氏を兼ねる「蔵元杜氏」や、正社員が酒造りの責任者を務める例が増えています。

獺祭の答え:「社員ひとりひとりが匠」

獺祭は、その杜氏制度そのものを手放しました。公式サイトは「私たちは、ひとりの杜氏の勘や経験に頼るのではなく、社員全員で酒づくりを行っています。高品質の酒を、安定的にお届けするためです。したがって、社員ひとりひとりが酒づくりの匠なのです」と記しています。

転機は、別事業の失敗のあとに杜氏が蔵を去ったことでした。残された蔵人たちが、杜氏の持っていた勘と経験を数字に置き換えていく——講演の14分40秒からがその話です。廃止の年については、1998年とする記事と、2000年から杜氏なしの醸造を始めたとする記述があり、資料によって分かれます。本記事では年を断定せず「1990年代末から2000年ごろ」としました。

続く20分20秒からは、酒造りのデータ化・見える化の話になります。勘を数字に翻訳することは、味を落とさずに量を増やすための前提でもありました。26分20秒では、量が増えても「小仕込み」を続ける理由が語られます。32分8秒の「アジャイル開発(PDCA)」というたとえは、酒造りを毎年の一発勝負ではなく、細かく回して直し続ける営みとして捉え直すものです。

なぜ山田錦と純米大吟醸だけなのか

純米大吟醸とは何か(国税庁の基準)

国税庁の「清酒の製法品質表示基準」では、特定名称酒の要件が次のように定められています(国税庁サイト・2026年10月20日確認)。

  • 純米大吟醸酒:原料は米と米こうじのみ、精米歩合50%以下、こうじ米の使用割合15%以上、吟醸造りで固有の香味・色沢が特に良好
  • 大吟醸酒:米・米こうじ・醸造アルコール、精米歩合50%以下、こうじ米15%以上
  • 純米吟醸酒:米と米こうじのみ、精米歩合60%以下、こうじ米15%以上
  • 吟醸酒:米・米こうじ・醸造アルコール、精米歩合60%以下、こうじ米15%以上
  • 純米酒:米と米こうじのみ、精米歩合の規定なし、こうじ米15%以上

つまり純米大吟醸は、米を半分以上削り、米と米こうじだけで醸す区分です。獺祭の看板である「磨き二割三分」は、その精米歩合をさらに23%まで進めたものです。公式サイトは、精米後の米が最大144時間という長時間の摩擦熱で水分を失うため、一か月以上そのまま貯蔵して水分を回復させてから洗米すると説明しています。

山田錦という米

山田錦は、1923年(大正12年)に兵庫県立農事試験場で「山田穂」と「短稈渡船」を人工交配して生まれ、1936年(昭和11年)に命名されて兵庫県の奨励品種になりました。千粒27〜28グラムの大粒で心白が大きく吸水性がよく、タンパク質とアミノ酸が少ないため雑味の少ない酒に仕上がり、大吟醸などの高級酒づくりに向きます。「酒米の王」とも呼ばれます。

いっぽうで背が130センチほどと高く倒れやすく、病害虫にも弱い、栽培の難しい品種です。2022年時点で兵庫県が国内生産量の約56%を占め、三木市や加東市の一部は「特A地区」として珍重されます。講演の52分20秒で語られる「山田錦コンテスト」は、その米をつくる農家とともに品質を上げていく取り組みです。

「日本で一番失敗している酒蔵」という言い方

講演の題は「日本で一番失敗している酒蔵の挑戦」です。概要欄は、昭和の終わりに地元で「負け組」だった小さな酒蔵が、伝統の杜氏制度を捨て、データ主義と新しい手法で成功をつかむまでの道のりだと紹介しています。8分35秒からは、コンサルタントに頼らずに変革を進めた理由が語られます。

実際、蔵の歩みには躓きも記録されています。高値での転売が広がった2017年12月には、適正な価格でない品を買わないよう呼びかける新聞広告を出しました。2018年7月の豪雨では蔵が被災し、同月28日まで生産が止まっています。

規模についても、数字の出どころと時点によって差があります。講演の紹介文は「売上約200億円、海外輸出3割」とし、公開されている企業情報では2023年9月期の売上が174億円、売上に占める輸出の割合が約43%とされています。年度も集計の取り方も異なるため、本記事では片方を正解とせず両方を示します。

ニューヨークに蔵を建て、月を見ている

2023年9月、ニューヨーク州ハイドパークに同社初の海外拠点「DASSAI BLUE SAKE BREWERY」が稼働しました。米国の料理学校 The Culinary Institute of America の敷地内という立地で、日本と同じように山田錦のみ・純米大吟醸のみで酒を造り、銘柄名は「DASSAI BLUE」。講演では34分35秒からこの話になります。

さらに公式サイトは「獺祭MOONプロジェクト」を掲げています。2024年に始動し、2050年の月面醸造を目指すというもので、第一歩として国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」にある人工重力発生機を使い、月面重力(6分の1G)を模擬した環境で清酒の醸造試験を行います。JAXAの「きぼう」有償利用制度を活用し、三菱重工業と共同で、日本酒特有の並行複発酵の概念実証に取り組むと説明されています。原材料(α化米・乾燥麹米・乾燥酵母・水)と宇宙専用の醸造装置は、2025年10月21日に種子島宇宙センターからH3ロケットと補給機HTV-Xで打ち上げられました。

なぜ宇宙なのか。公式サイトの説明は現実的です。ワインの原料であるブドウは水分が多く重いが、日本酒の原料である米は軽く月まで運びやすい。将来は米と、月にあるとされる水で醸したい——という筋立てです。講演の49分30秒からがこの話にあたります。なお、新しい蔵(3号蔵)は2028年春の完成予定と公式に発表されています。

若い蔵人が全工程を担う「登龍門」

獺祭には「登龍門」という取り組みがあります。公式サイトの説明によれば、入社年月の浅い蔵人が2人1組で、洗米から上槽(搾り)までの造りの全工程をひとつの仕込みで担います。普段の酒造りは分業制のため、工程同士のつながりを自分の実感として捉える機会が多くないからです。

与えられる課題は「獺祭らしい獺祭を造れ」。なぜこの洗米時間なのか、なぜこの麹なのか、なぜこの仕込み温度なのか——一つひとつに立ち返り、分からないことをあぶり出して確かめ直す。公式サイトは「そのお酒は完全な獺祭ではないかもしれません」と率直に書き、完成品を世に出すこと自体が目的ではなく、蔵人が一人前へ向かうための通過点だとしています。社員で酒を造るという選択を、人の育ち方の側から見た姿がここにあります。

買う・訪ねる

老舗通販.netでの取扱について:2026年10月20日の時点で、老舗通販.netに獺祭の商品ページは確認できませんでした(公開されているコレクション244件を走査、商品検索でも該当なし)。お取り寄せは上記の公式通販をご利用ください。

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老舗フェスティバル2026 by agataJapan

2026年10月3日(土)、東京・日本橋の福徳の森と仲通り周辺で「老舗フェスティバル2026 by agataJapan」を開催しました。ご来場いただいた皆さま、ご出展・ご協力いただいた老舗とご当地の皆さまに、あらためて御礼を申し上げます。

獺祭も参加企業・団体として名を連ねました。開催前のクラウドファンディングでは、若い蔵人が2人1組で全工程を担う極小量生産の限定酒「獺祭 登龍門」を会場で味わえるドリンクチケットと特製枡が、数量限定のリターンとして用意されました。この記事の動画は前年の2025年のセミナーのアーカイブですが、こうした場で蔵の挑戦に触れられるのも老舗フェスティバルの楽しみ方のひとつです。

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