東京・日本橋のCOREDO室町1の1階に、400種類を超える商品が並ぶ鰹節専門店があります。にんべん。創業は元禄12年(1699年)、320年以上を鰹節ひとすじで続けてきた店です。オレンジ色のラベルでおなじみの「つゆの素」も、家庭用の削り節を変えた「フレッシュパック」も、この店から生まれました。
YouTubeチャンネル「日本の老舗」には、にんべんを取り上げた動画が3本あります。シリーズ「五つの奥義」の9分26秒の回、CICライブの46分41秒のご当主インタビュー、そして老舗サミット2023での6分12秒の講演。語り手はいずれも十三代目当主・髙津伊兵衛さんです。このページでは3本をまとめてご紹介します。
動画①【五つの奥義】常識にとらわれない、かつお節の老舗
9分26秒。この回は概要欄に章立てのタイムスタンプが記載されています。
- 02:43 奥義一、見極める「目利きの技」
- 03:50 奥義二、こだわりは厚み0.05mm以下
- 04:33 奥義三、時代を見抜き提案する
- 05:40 奥義四、より感じられる「うま味と香り」
- 07:18 奥義五、鰹節の未来のため
ナレーションはセイン・カミュさん。「新しいものを取り入れることこそ、にんべんが320年という長い歳月を生き抜いてこられた秘訣」という当主の言葉が軸になっています。
動画②【CICライブ】十三代目当主インタビュー(46分41秒)
番組「伝統はイノベーションの連続である」の一本。概要欄に章立てはないため、以下は語られている論点をまとめたものです。
- 伊勢生まれの初代が日本橋で戸板を並べて始めた商いの原点
- 武家を得意先とした時代から、町人へと客層が移っていった江戸後期
- 「現金掛け値なし」という決済スタイルの導入
- 商品券の大量発行という、鰹節屋らしからぬ資金のつくり方
- 明治維新という取引先の消滅をどう乗り越えたか
動画③【老舗サミット2023】日本橋の老舗の取り組み(6分12秒)
2023年10月20日「老舗の日」に開催された老舗サミットでの講演から、髙津伊兵衛さんの登壇部分を抜き出した回です。日本橋という土地での創業の意味、鰹節の普及活動、フレッシュパック技術の確立、そして「かつお節・だしライフデザインカンパニー」という現在のビジョンまでが語られます。
にんべんとは — 創業は何年で、屋号はどこから来たのか
元禄12年(1699年)、初代・髙津伊兵衛が日本橋四日市の土手蔵(現在の日本橋一丁目、野村證券本社付近)で戸板を並べ、鰹節と干魚類の商いを始めたのが起こりです。伊勢生まれで12歳から江戸で年季奉公を始め、20歳で独立しました。宝永元年(1704年)には小舟町に鰹節問屋を開業し、屋号を「伊勢屋伊兵衛」としています。
「にんべん」という社名は、お客さんが付けたものです。創業以来「カネにんべん」と呼ばれるマークを使っていたため、それを見た人から「にんべんさん」と呼ばれるようになり、その愛称をそのまま社名にしました。屋号を自分で決めずに、呼ばれ方を受け入れたわけです。
その後、数々の大名家を得意先とし、正価を定めて現金で売る「現金掛け値なし」の商いも取り入れて事業を拡大。明治維新、関東大震災、戦争と大きな波に翻弄されながらも、そのたびに立ち直り、現在も原点である日本橋に本店を構えています。詳しい記録はagataJapan.tokyoのにんべん 日本橋本店のページと、連載記事日本橋で300年以上、時代のニーズに沿った商品を開発し続けるにあります。
鰹節屋が発行した「商品券」という発明
にんべんの歴史でひときわ目を引くのが、商品券の大量発行です。髙津さんの説明では、江戸後期、6代目のころ(1830年ごろ)に銀でできた商品切手を発行し、その銀の価値と同等の鰹節と交換する仕組みを始めました。表に「2匁」と記され、1両が60匁ですから1両の30分の1。当時1両が約10万円に相当するとすれば、3,300円ほどの鰹節と交換されたと見られています。
菓子屋の商品切手は当時もあったものの、大量に発行して商売として回した例は珍しかったといいます。裏面には「定める」と記され、公に認められた印が入っていました。銀の混ぜ物をしないという信用があってはじめて成り立つ仕組みです。その信用を得たあとは紙の商品券を大量に発行し、コストを下げて大々的に展開しました。
交換されるまでの間、代金は店に前受けされます。髙津さんはこれを「鰹節屋なんですけど、金融ですよね」と振り返ります。鰹節が保存の効く商品であることも、この商いと噛み合っていました。そしてこのキャッシュフローがあったからこそ、幕府という大口の取引先が消滅する明治維新を越えられたと語られています。詳細は連載記事321年の歴史を持つ鰹節の老舗「にんべん」には、どのようなイノベーションがあったのかと『フレッシュパック』『つゆの素』はどうやって生まれた?にあります。
なお、老舗サミット2023の講演概要には「1720年には商品券の導入を試みた」との記載もありますが、公式サイトの沿革では1720年(享保5年)は瀬戸物町へ移転して本店とし「現金掛値なし」の看板を掲げた年とされ、商品券は「1830年 天保の頃」に銀製の薄板で発行され、徳川時代の末期に発行された商品券の中で最古のものとされています。当主自身のインタビューの「1830年ごろ・6代目」と一致するため、本記事ではそちらを採りました(2026年10月4日、公式サイトの沿革で確認)。
本枯鰹節とフレッシュパック — 鰹節の背景知識
鰹節には、燻して乾燥させただけの「荒節」と、そこにカビを何度も付けて熟成させる「本枯鰹節」があります。本枯の技術が確立したのは江戸末期から明治にかけて。使われるのは麹菌の仲間である優良鰹節カビです。一説では、大阪から鰹節を船で運ぶ間にカビが生えてしまい、取り切れないまま食べてみたら美味しくなっていた — それが積極的なカビ付けの始まりだと伝えられています。
本枯鰹節は、生のカツオを煮る・骨を抜く・乾燥させる・カビを付けるという工程を経ます。髙津さんによれば、原料のカツオは鮮度が良ければよいというものではなく、釣り上げられてから旨味成分が増える時間帯があり、そのタイミングで煮ることが肝心。乾燥の見きわめには、節同士をぶつけたときの「カンカン」という甲高い音を使います。
削りの厚みは0.05mm以下。100分の5ミリという薄さにすることで、口の中でとろけるような食感が生まれます。そして昭和44年(1969年)、にんべんは業界で初めて「フレッシュパック」を発売しました。袋に窒素ガスを封入して酸化を防ぐ技術です。家庭で鰹節を削らなくなる時代の到来を見抜いた商品でしたが、にんべんは特許を取得したうえで他社にも使用を許可しました。業界全体の発展のため、という判断です。
日本橋には、だしや乾物に関わる老舗が集まっています。味付け海苔の山本海苔店、佃煮の海老屋總本舗、そばつゆを守り続ける総本家更科堀井。鰹節が江戸の食をどう支えてきたかが見えてきます。
名物・買う・訪ねる
にんべん 日本橋本店は2010年、COREDO室町1のオープンとともに開店しました。もともと移転を前提とした仮店舗だったものを、削りたての鰹節を試食したり、できたてのだしを味わったりできる「体験型」にしてみた — その実験が当たり、そのまま本店となりました。店内には鰹節の削りを実演販売する「日本橋削り場」と、一汁一飯をコンセプトにしただしのスタンディングバー「日本橋だし場」が併設されています。かつお節だし1杯100円は、2021年に累計98万杯を突破しました。
- 本枯鰹節 削りたて — 「日本橋削り場」でほぼ毎日削られている削りたての本枯鰹節
- 薫る味だし 8g×22袋入 1,728円〜1,944円 — 素材になるべく熱をかけない乾燥法で香りを残し、各包装に不活性ガスを充填。かつお/かつおと昆布/焼あご入りの3種
- 野菜を美味しく食べるたれ 200ml 540円〜594円 — ごま/うま塩/玉ねぎ/柚子の4種。化学調味料・保存料・着色料無添加
- つゆの素、つゆの素ゴールド — 近年はプレミアムクラスの「ゴールド」シリーズの人気が高まっている
- 店舗:にんべん 日本橋本店 — 東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町1・1階
- 電話:03-3241-0968
- 営業時間:月〜金11:00〜19:00、土・日・祝10:30〜19:00(併設の日本橋だし場 本店は11:00〜18:00) / 定休日:1月1日を除き年中無休(COREDO室町1に準ずる)
- 公式サイト:株式会社にんべん / 公式ネットショップ:にんべんネットショップ
営業情報は2026年10月4日に公式サイトの日本橋本店ページで確認しました。老舗通販.netにはにんべんのコレクションページはありませんが、公式のネットショップから購入できます。
海外市場でも伸びており、2015年と比較して商品の輸出量は約2倍になったと語られています。
老舗フェスティバル2026について
agataJapanが企画・制作する「老舗フェスティバル2026 by agataJapan」は、2026年10月3日(土)10:00〜18:00、東京・日本橋の福徳の森と仲通り周辺(東京都中央区日本橋室町2-5-10)で開催されました。全国の老舗が集まる老舗マルシェ、奉納能、老舗サミットなどを通じて、3代100年以上続く老舗の品と技に触れられる一日です。
- 開催日時:2026年10月3日(土)10:00〜18:00
- 会場:福徳の森・仲通り周辺(東京都中央区日本橋室町2-5-10)
- 詳細:老舗フェスティバル2026 特設ページ
- チケット:老舗フェスティバル2026 チケット販売ページ
100年続く老舗の品を、お取り寄せで
「老舗通販.net」は、3代100年以上続く老舗だけが参加する通販サイトです。2010年の開設以来、全国の老舗の品を扱ってきました。遠方でお店に足を運べない方も、ここから取り寄せられます。
動画チャンネル「日本の老舗」について
この動画は、YouTubeチャンネル「日本の老舗」のシリーズ「【五つの奥義】」の一本です。日本には100年以上続く老舗が3万3,000以上あるといわれます。そのご当主に、老舗を老舗たらしめる五つの奥義を語ってもらうシリーズで、ナレーションはセイン・カミュさんが務めています。
よくある質問
にんべんの創業は何年ですか
元禄12年(1699年)です。初代・髙津伊兵衛が日本橋四日市の土手蔵で戸板を並べ、鰹節と干魚類の商いを始めたのが起こりです。
「にんべん」という社名の由来は何ですか
創業以来使っていた「カネにんべん」というマークを見た人から「にんべんさん」と呼ばれるようになり、その愛称をそのまま社名にしました。
本枯鰹節と荒節の違いは何ですか
荒節は燻して乾燥させただけのもの、本枯鰹節はそこにカビを何度も付けて熟成させたものです。本枯の技術が確立したのは江戸末期から明治にかけてで、使われるのは麹菌の仲間である優良鰹節カビです。
この記事は、YouTubeチャンネル「日本の老舗」の動画をもとに、動画で見る日本の老舗シリーズとして構成しました。東京都の老舗もあわせてご覧ください。
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